「DTPデザイナーとして紙媒体を作ってきたけれど、この先どうなるのか不安がある」「Webデザイナーへ転職したいが、何から手を付ければいいのかわからない」。印刷業界で働く方から、こうした相談は少なくありません。
DTPデザイナーからWebデザイナーへの転職は、まったくの未経験者と比べれば有利な立ち位置からスタートできます。レイアウト、文字組み、配色といった土台がすでに身についているためです。ただし、そのままでは通用しない領域もはっきりあります。
この記事では、DTPデザイナーがWebデザイナーへ転職する際に活かせるスキル、追加で身につける必要があるスキル、学習の進め方、ポートフォリオの作り方、そして転職活動の具体的な流れまでを順に解説します。

DTPデザイナーがWebデザイナーへの転職を考える背景
転職を検討する理由として、次のような点が挙げられることが多く見られます。
- 紙媒体の案件量が減り、単価も上がりにくいと感じている
- 印刷物の制作が納期直前に集中し、繁忙期の負荷が大きい
- Web案件を社内で受けるようになり、対応できる人がいない
- 在宅勤務やリモート案件が可能な働き方に移りたい
特に4つ目は現実的な動機です。印刷は色校正や実機確認のために出社が前提になる工程が残りますが、Web制作はデータのやり取りだけで完結する部分が多く、働く場所の選択肢が広がります。
DTPデザイナーの経験がWebデザインで活きる5つのスキル
1. レイアウトと余白の設計
要素をどう並べ、どこに余白を取るかという判断は、媒体が変わっても通用します。DTPで培った「情報の優先順位を視覚的に伝える力」は、Webのファーストビュー設計にそのまま応用できます。
2. 文字組み・タイポグラフィ
行間、字間、書体選びの感覚は、Webでも大きな武器になります。Web制作の現場では文字組みが雑なまま公開されているサイトも多いため、この部分の精度が高いだけで制作物の完成度が一段上がります。
3. 配色の判断
CMYKからRGBへ扱う色空間は変わりますが、色を組み立てる考え方は共通です。むしろ印刷の制約から解放されるぶん、選択肢が広がったと感じる方が多くいます。
4. Adobe系ツールの操作
PhotoshopとIllustratorはWeb制作の現場でも使われ続けています。バナー制作や画像素材の書き出しといった作業は、DTP経験者ならすぐに戦力になれる領域です。
5. 指示書を読み解く力と入稿の几帳面さ
DTPの現場で身につく、仕様を確認してから作る習慣や、誤字脱字を潰す注意深さは、Web制作でも高く評価されます。公開後に修正できるとはいえ、誤りが多い納品はクライアントの信頼を損ないます。
面接では「デザインができます」ではなく、「500ページのカタログを組んだ経験があるので、情報量が多いサイトの構造整理が得意です」というように、DTPの経験をWeb業務に翻訳して伝えると評価につながりやすくなります。
Webデザイナーへの転職で新しく必要になるスキル
HTML・CSSの基礎
自分でコーディングする職場かどうかにかかわらず、HTMLとCSSでできること・できないことを理解していないと、実装できないデザインを作ってしまいます。まずは静的なページを1枚、自力で組めるところまでを目標にしましょう。仕様の一次情報としてはMDN Web Docsが信頼できる参照先です。
レスポンシブデザインの考え方
A4という固定サイズに配置してきた感覚のままだと、画面幅が変わったときに破綻します。要素の相対的な関係で組み立てる発想への切り替えが必要です。
Figmaの操作
Webデザインの現場ではFigmaが広く使われています。ブラウザ上で動作し、複数人が同じファイルを同時に編集できる点がIllustratorとの大きな違いです。無料で使えるプランが用意されているため、まずは触ってみるところから始められます。詳しい機能や料金はFigmaの公式サイトで確認してください。
操作を体系的に覚えたい場合は、Figmaの解説書を手元に置いておくと、つまずいたときに調べやすくなります。
UI・UXの基本的な考え方
クリックされるボタン、迷わないナビゲーション、入力しやすいフォーム。人の操作を前提とした設計はDTPにはない領域なので、意識的に学ぶ必要があります。
Webサイトの運用に関する知識
WordPressをはじめとするCMS、公開後のアクセス解析、SEOの基礎などは、必須ではないものの知っていると評価される範囲です。

DTPデザイナーがWebデザイナーになるまでの学習ステップ
ステップ1:HTML・CSSで1ページ作る
最初の目標は、既存のシンプルなWebページを見ながら同じものを自力で組んでみることです。ここで「デザインデータがどう画面になるのか」の感覚がつかめます。
ステップ2:Figmaで既存サイトを模写する
好きな企業サイトを1つ選び、Figmaで再現します。模写をすると、余白の取り方やコンポーネントの考え方が具体的に見えてきます。Illustratorとの操作の違いにも自然と慣れていきます。
ステップ3:オリジナルのサイトをデザインする
架空のカフェや美容室など、テーマを決めて1本作ります。ターゲット、目的、掲載する情報を自分で決めるところまで含めて作るのがポイントです。
ステップ4:作ったデザインをコーディングして公開する
公開まで到達すると、実装の制約やスマートフォンでの見え方など、机上では気づけない課題が一気に見えてきます。公開まで自力でやり切った経験があるかどうかは、面接でも差がつきやすいポイントです。
ステップ5:ポートフォリオにまとめる
作品を並べるだけでなく、誰に向けたサイトか、どんな課題をどう解決したかを1作品ごとに文章で添えます。DTP時代の作品も、Web的な視点で語れるなら掲載して構いません。
働きながら学ぶときの現実的な工夫
印刷会社や制作会社で働きながらの学習は、繁忙期に手が止まりやすいという悩みが付いて回ります。1日の学習時間を確保するより、再開のハードルを下げる工夫のほうが効果的です。
- 27インチのWQHDモニター:デザインツールとブラウザを並べて表示でき、学習中の行き来が減ります
- PD対応の65W GaN充電器:カフェや実家など、場所を変えて学習するときの持ち運びが軽くなります
- ノートPCスタンド:長時間の学習で首や肩にかかる負担を軽くする目的で使われます
- HTML・CSSの入門書とFigmaの解説書:画面だけで学ぶより、手元で参照できる書籍があると詰まったときに戻れます
- A4サイズのファイルボックス:書籍と手書きのメモをまとめておくと、学習の再開が早くなります

転職活動の進め方
社内でWeb案件に手を挙げる
いきなり外に出る前に、今の会社でWeb関連の仕事に関われないかを探すという手があります。実務としてWebに触れた経験は、たとえ小規模な案件でも職務経歴書に書けます。バナー制作や既存サイトの更新作業からでも構いません。
求人の見方を知る
Webデザイナーの求人には、デザイン専任のものと、コーディングまで担当するものが混在しています。応募前に「求めるスキル」の欄を読み込み、自分の現在地と照らし合わせることが、入社後のミスマッチを防ぎます。職種ごとの業務内容は厚生労働省の職業情報提供サイト jobtagでも確認できます。
ポートフォリオは応募先に合わせて調整する
コーポレートサイトを主に手がける会社に、派手なキャンペーンLPばかりを見せても評価につながりにくいものです。応募先の制作実績を確認し、近い傾向の作品を上に配置しましょう。
作品の並べ方や説明の書き方は、ポートフォリオの作例をまとめた本で確認しておくと参考になります。
職種を変える転職では、一時的に年収が下がる可能性があります。生活費の見通しを立てたうえで判断し、条件面は選考の早い段階で確認しておくと、後から悩まずに済みます。
転職先の選択肢と、それぞれの向き不向き
ひとくちにWebデザイナーの求人といっても、働く場所によって仕事の中身はかなり違います。DTPデザイナーからの転職では、どの環境を選ぶかで学習の負担も変わります。
| 転職先 | 仕事の特徴 | DTP経験者との相性 |
|---|---|---|
| Web制作会社 | 案件数が多く、短期間で多様なサイトに関わる | 制作スピードに慣れている方に向く |
| 事業会社のインハウス | 自社サービスのサイトやバナーを継続的に改善する | 腰を据えて改善を積み上げたい方に向く |
| 広告代理店 | 紙とWebの両方を扱う案件が発生する | 紙の知識をそのまま活かしやすい |
| 印刷会社のWeb部門 | 既存の取引先向けにWeb制作を担当する | 業界知識を引き継げるため移行が滑らか |
印刷会社や広告代理店のWeb部門は、DTPデザイナーからの転職先として見落とされがちですが、これまでの業界知識をそのまま使えるという意味では相性が良い選択肢です。取引先の業種や進行の作法を知っているだけで、入社後の立ち上がりが早くなります。
一方、Web制作会社は案件のスピードが速く、覚えることも多いため、最初の数か月は負荷が高くなりがちです。短期間で経験を積みたいのか、無理なく移行したいのかで選ぶ先は変わります。

よくある質問
Q. 年齢が高くてもDTPからWebデザイナーへ転職できますか?
年齢だけで判断されるわけではありませんが、経験年数が上がるほど「即戦力性」を問われる傾向はあります。DTPで培ったディレクション経験やクライアント対応力を前面に出し、Webの制作物で技術面の不安を打ち消す構成にすると伝わりやすくなります。
Q. コーディングはできないと応募できませんか?
デザイン専任の求人であれば実装は担当しない場合もあります。ただし採用側から見ると、コーディングを理解しているデザイナーのほうが指示のすり合わせが楽なため、基礎は押さえておくほうが選択肢が広がります。
Q. スクールに通ったほうがいいですか?
DTP経験者はデザインの基礎が済んでいるため、Web特有の部分だけを補えば足ります。総合的なコースより、コーディングやFigmaに絞った短期の講座を選ぶほうが費用対効果は高くなりやすいです。作品を客観的に見てもらえる環境がほしい場合には、通う価値があります。
Q. ポートフォリオには何点くらい載せればいいですか?
点数よりも中身です。オリジナルのWebサイトが2〜3点あり、それぞれに制作意図の説明が付いていれば形になります。数を増やすために完成度の低い作品を並べると、かえって評価が下がります。
Q. DTP時代の作品は載せてもいいですか?
載せて構いません。ただしWebの制作物が主役になるように順番を組み、DTP作品は「情報整理力の裏付け」として位置づけると効果的です。なお、クライアントワークの成果物には公開の可否があります。掲載前に守秘義務の範囲を確認し、公開できないものは「非公開案件のため詳細は面接時に説明します」と記載する対応が一般的です。
Q. 学習にどのくらいの期間を見ておけばいいですか?
個人差は大きいものの、DTPの基礎がある方であれば、HTML・CSSとFigmaの操作を押さえてオリジナル作品を1本仕上げるまでに数か月を見込む方が多く見られます。働きながらの場合は、繁忙期に手が止まることも前提に計画を立てておくと、途中で自己嫌悪に陥らずに済みます。
まとめ
DTPデザイナーからWebデザイナーへの転職では、レイアウト、文字組み、配色、Adobe系ツールの操作、そして仕様を守る几帳面さという5つの資産をそのまま持ち込めます。新たに必要になるのは、HTML・CSSの基礎、レスポンシブの考え方、Figmaの操作、UI・UXの視点、そしてサイト運用の知識です。
学習は「HTML・CSSで1ページ組む → Figmaで模写 → オリジナル制作 → 公開 → ポートフォリオ化」の順に進めると、迷いが少なくなります。転職活動では、DTPの経験をWebの言葉に翻訳して伝えることが評価につながります。これまで積み上げてきたものを土台にして、着実に次のステップへ進んでいきましょう。



