Web制作の案件を受けるとき、いちばん困るのが金額の提示ではないでしょうか。相場がわからないまま見積もりを出して、後から「安く受けすぎた」と気づく、あるいは高すぎて反応がもらえない。どちらも駆け出しの時期には頻繁に起こります。
Web制作の案件相場は「案件の種類」「依頼先が制作会社か個人か」「直請けか下請けか」の3つで大きく変動し、同じ作業内容でも数倍の開きが出ます。
この記事では、案件の種類ごとの費用目安、単価が決まる仕組み、見積もりの組み立て方、そして単価を上げていく手順を整理します。数字を丸暗記するのではなく、なぜその金額になるのかを理解しておくと、はじめて見る案件でも自分で判断できるようになります。

案件の種類別に見る費用の目安
制作会社に依頼した場合の目安
まず、依頼側から見た費用感を押さえておきます。制作会社に発注する場合、公開されている費用相場の情報ではおおむね次のような水準が示されています。
| 案件の種類 | 費用の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 小規模なコーポレートサイト | 30万円前後から | ページ数が少なくテンプレート活用が中心 |
| 中規模のコーポレートサイト | 60万円前後から | オリジナルデザイン・CMS実装を含む |
| ランディングページ | 40万〜55万円あたりが中心帯 | 構成・ライティングを含むかで変動 |
| 10ページ規模のサイト | 30万〜100万円程度 | 直請けか仲介経由かで大きく開く |
幅が広く見えますが、これは含まれる作業範囲が案件ごとにまったく違うためです。同じ「LP制作」でも、デザインだけなのか、構成設計とライティングと実装まで含むのかで金額は倍以上変わります。
フリーランスが受ける場合の目安
個人が直接受注する場合、制作会社に比べて2割から5割ほど安い水準になる傾向があります。事務所の固定費や営業人員のコストが乗らないためです。
| 作業内容 | 単価の目安 |
|---|---|
| バナー制作1枚 | 5,000円〜15,000円程度 |
| LPのデザインのみ | 5万円〜12万円程度 |
| LPのデザイン+コーディング | 10万円〜30万円程度 |
| コーポレートサイト一式 | 20万円〜60万円程度 |
いずれも公開されている相場情報をもとにした目安であり、スキルや実績、地域、繁忙期かどうかによって上下します。金額を確定させる際は、作業範囲を明文化したうえで見積もりを作成することが前提になります。
価格の決め方や取引の進め方は、フリーランスのWebデザイナー向けの本でも整理されています。手元に1冊置いておくと、見積もりの判断材料になります。
相場より極端に高い金額を提示された案件には、無制限の修正対応や短すぎる納期といった条件が隠れていることがあります。金額だけで飛びつかず、条件をひととおり確認してから判断してください。
単価はどうやって決まるのか
作業時間から逆算する考え方
もっとも扱いやすいのが、時間単価を基準にする方法です。自分が生活していくために必要な月収を、実際に作業できる時間で割ります。
たとえば月に30万円を確保したい場合、稼働できる時間が月120時間なら時間単価は2,500円です。ただしこの計算には落とし穴があります。実務では打ち合わせ、見積もり作成、請求書処理、修正対応といった直接お金にならない時間が3割から4割を占めるため、その分を上乗せしないと想定より手取りが減ります。
直請けと下請けで変わる取り分
制作会社の下請けとして入る場合、デザイン部分の取り分は制作費全体の30〜50%程度が目安とされます。差額はディレクション費、営業費、会社側の管理コストにあたる部分です。
直請けはその差額が自分に入る一方、ヒアリング、要件整理、進行管理、クレーム対応まですべて自分で背負うことになります。単価の高さだけを見て直請けに寄せると、制作以外の業務で時間を食われて時間単価はむしろ下がる、ということも起こります。
クラウドソーシング経由は手数料が引かれる
プラットフォーム経由で受注する場合、システム利用料が差し引かれます。クラウドワークスは契約金額10万円以下の部分が20%、10万円超20万円以下が10%、20万円超が5%という段階制です。ランサーズは一律16.5%(税込)となっています。
つまり10万円の案件を受けても、クラウドワークス経由なら手元に残るのは8万円程度です。プラットフォームで見積もりを出すときは、手数料を織り込んだ金額を提示しないと想定した収入になりません。料率は改定されることがあるため、応募前に公式ページで最新の条件を確認してください。
手数料や経費を差し引いた手取りの考え方は、フリーランス向けの確定申告の本で押さえておくと計算しやすくなります。

見積もりの組み立て方
作業を分解して並べる
一式いくら、という出し方は避けてください。内訳が見えないと、クライアントは高いか安いか判断できず、値引き交渉の材料にされやすくなります。
- ヒアリング・要件整理
- サイト構成の設計(サイトマップ・ワイヤーフレーム)
- トップページのデザイン
- 下層ページのデザイン(ページ単価×枚数)
- コーディング(レスポンシブ対応を含む)
- CMS実装
- サーバー設定・公開作業
- 公開後の初期サポート期間
分解して並べると、クライアント側も「この項目は自社で用意する」といった調整ができるようになり、話が前に進みやすくなります。
修正回数を最初に決める
見積もりで揉める原因の大半がここです。「デザイン案は2案提示、修正は2回まで、3回目以降は1回あたり◯円」というように、最初から上限を書いておいてください。
修正無制限で受けると、決裁者が増えるたびに指示が変わり、終わりが見えなくなります。回数の上限は、自分を守るためだけでなく、クライアント側に「意見をまとめてから出す」という意識を持ってもらうためにも機能します。
素材の用意は誰がやるのか
写真、原稿、ロゴデータをクライアントが用意するのか、こちらで手配するのかで工数はまったく変わります。撮影やライティングまで含むなら、その分は別項目として計上してください。
単価を上げていく手順
実績が3件たまったら見直す
最初の数件を相場より安く受けるのは、実績づくりとして理解できる判断です。問題はそのまま据え置いてしまうことにあります。3件ほど納品してポートフォリオが揃った時点で、次の案件から金額を1段階上げると決めておくと、上げ損ねを防げます。
提供する範囲を広げる
単純な値上げより通りやすいのが、提供範囲の拡張です。デザインだけを受けていた人がコーディングまで対応する、公開後の運用保守を月額で引き受ける、といった形で守備範囲を広げれば、金額が上がる理由をクライアントに説明できます。
成果を語れるようにする
「見た目がきれい」だけでは金額の根拠になりません。問い合わせ件数が増えた、スマートフォンからの離脱が減ったといった、数字で語れる材料を持っている人は交渉が有利になります。公開後にアクセス解析まで見せてもらえる関係を作れると、次の提案にもつながります。
買いたたきには応じない
発注側が一方的に著しく低い金額を押しつける行為は、取引の適正化を求める法律上の問題になり得ます。取引に関する考え方は公正取引委員会が情報を公開しています。理不尽な条件を提示された場合、その取引先とは距離を置く判断も必要です。なお、本記事の内容は法的助言ではありません。個別の取引が法律上どう扱われるかについては、公的な相談窓口や弁護士などの専門家にご相談ください。

単価以外に見ておきたい条件
支払いサイト
納品から入金までの期間です。月末締め翌月末払いが一般的ですが、翌々月払いの取引先もあります。金額が良くても入金が遅い案件ばかりだと、手元の資金が苦しくなります。単価が1割高い案件より、入金が1ヶ月早い案件のほうが事業としては安定する場面もあります。
権利の扱い
制作物の著作権を譲渡するのか、使用許諾にとどめるのかを確認してください。譲渡する場合は、その分を金額に反映させるのが通常の考え方です。ポートフォリオへの掲載可否も、契約時に確認しておきたい項目です。
作業環境のコスト
単価を考えるうえで見落とされがちなのが、自分側の設備投資です。デザインツールのサブスクリプション、サーバー代、素材サイトの利用料は毎月出ていきます。加えて、複数の画面を並べて作業するための27インチクラスのモニターや、色の確認に使うキャリブレーション対応ディスプレイのような設備も、単価の根拠を支える要素になります。
納品データのバックアップに使う外付けSSDや、長時間作業を支えるオフィスチェアも、結局は生産性に直結する投資です。経費として計上できるものは適切に処理し、そのコストを含めた金額設定を考えてください。
見積もり前に確認したい項目
誰が決裁するのかを聞く
やり取りしている担当者に決裁権があるとは限りません。デザイン案を出した後で上長や役員が登場し、方向性そのものがひっくり返るというのはよくある展開です。最初のヒアリングで「最終的にどなたが判断されますか」と確認しておくだけで、後戻りの回数が減ります。
公開希望日から逆算する
「なるべく早く」という依頼は要注意です。展示会や新店舗のオープンなど、動かせない期日がある案件は、そこから逆算したスケジュールを組む必要があります。素材の支給が遅れた場合に公開日をどうするかも、着手前に取り決めておいてください。
過去の制作物と不満点を聞く
既存サイトがある場合、前回どこに不満があったのかを聞き出せると提案の精度が上がります。「更新を頼むたびに費用がかかるのが負担だった」という声が出れば、自分で更新できるCMS実装を提案する根拠になります。逆に、その手間を引き受ける保守契約という選択肢も見えてきます。
予算の上限を確認する
予算を聞くのは失礼ではないかと遠慮する方がいますが、聞かないまま提案するほうがお互いに時間を無駄にします。予算が合わなければ、機能を削った縮小案を提示するか、丁寧にお断りするかの判断を早い段階で下せます。
よくある質問
Q. 未経験でも相場どおりの金額を提示していいですか
実績がない状態で相場の上限を提示しても、選ばれる可能性は低くなります。最初は相場の下限あたりから始め、納品実績とともに段階的に上げていくのが現実的です。ただし極端に低い金額は、案件の質そのものを下げる原因になるため避けてください。
Q. 時間がかかりすぎて割に合わない案件はどうすればいいですか
まず、なぜ時間がかかったのかを振り返ってください。スキル不足なら次回までに補える課題ですが、要件が途中で膨らんだのであれば見積もりの作り方に原因があります。追加要望が出た時点で追加費用を提示する運用に切り替えてください。
Q. 値上げを伝えるとお客さんが離れませんか
離れる相手も出てきます。ただし、それは金額だけで発注先を選んでいる取引先であり、遅かれ早かれより安い相手に移っていく関係です。値上げは、長く付き合える取引先を選別する作業でもあります。
Q. 保守運用はいくらぐらいが妥当ですか
作業内容によって大きく変わります。更新代行の回数、バックアップの頻度、障害対応の範囲を決めたうえで、想定作業時間から算出してください。何が含まれて何が含まれないかを明記しておかないと、際限のない問い合わせ対応に追われることになります。
Q. 相見積もりで負け続けます
金額だけで勝負すると際限がありません。提案書の中身、レスポンスの速さ、公開後のサポート体制など、金額以外の判断材料をどれだけ提示できるかが分かれ目になります。負けた案件については、可能であれば理由を聞いてみるのも次につながります。
まとめ
Web制作の案件相場は、案件の種類と依頼先の形態によって大きく変わります。制作会社経由なら小規模なコーポレートサイトで30万円前後から、個人が受けるバナー制作なら5,000円台からといった具合に、同じ業界の中でも桁が違う仕事が並んでいます。
大切なのは、他人の金額を真似することではなく、自分の作業時間と経費から逆算して根拠のある数字を出せるようになることです。見積もりを分解して提示し、修正回数を決め、実績が積み上がったら段階的に上げていく。この流れを習慣にできれば、価格交渉に振り回されることは減っていきます。



